陽だまりの縁側

 仕事で福島県梁川町に行ったときのこと。福島駅前からタクシーに乗りました。行く先を告げると運転手さんは一瞬躊躇した後、すぐに走り出しました。と、次の瞬間、車を道路脇に止めるではありませんか!
「お客さん、すみません。」
日に焼けた人懐こい笑顔で運転手さんは振り向きました。
「場所がよくわからないから、ちょっと待ってね。大丈夫!強い味方があるから。」と言って、料金メーターを止めて、得意気になにやらリモコンを操作し始めました。カーナビでした。ところが、カーナビはなかなか言うことをきいてくれません。すると今度は勢いよくポケットに手をつっこみました。
「やっぱりこれが一番だね!」
携帯電話でした。訛りが強くて所々聞き取れませんでしたが、場所がわかったようで、やっと車は滑らかに走り出しました。同時に運転手さんの口も滑らかに回り始めました。

 福島県の気候の特徴や、遠くの山々。今は廃園になってしまった遊園地。昔はデートスポットだったという池…etc.梁川町についても、水害で大きな被害を受け町がきれいに整備されたこと。特産は、あんぽ柿とサンふじりんご。特にりんごは日本一おいしい!と、力説していました。さらに、「あほがい」という相槌は、「アホかい」と聞こえるかもしれないけれど、「ああ、ほうかい(そうかい)」という意味だから不愉快に思わないでと、方言についても教えてくれました。初めて会ったとは思えないほど、私達はよくしゃべりよく笑いました。それはまるで、縁側に腰をかけてお茶を飲んでいるような感じでした。陽だまりの心地よさが私を包み込み、会場に着くまでの50分ほどが短く感じられました。

 主催者の方が道路まで出て待っていてくれました。その女性を見るやいなや運転手さんは窓をあけました。「遅くなってすみません。」と、言うのかと思ったら……
「いやあ、村松さんが、あんぽ柿とりんごを食べたいって言うから、おみやげに用意してね!」と、のたまうではありませんか!
「そんなこと言ってないじゃないですか!」私はびっくりして、思わず運転手さんの背中をたたきました。
「福島の人はみんないい人だから、大丈夫。任せといて。」

 後日、本当にサンふじりんごが一箱送られてきました。蜜がたっぷり入っていて、それはそれは、おいしいりんごでした。あの人懐こい笑顔が浮かんできました。福島県の親善大使のような運転手さん、陽だまりの縁側のような人でした。

掲載:「月刊公民館」(全国公民館連合館) 2004年3月号