念願

 忘れられないインタビューがあります。栃木県那須町の町長を4期務めた益子重雄さんが町長をおやめになる時のこと。生まれ育った町に寄せる熱い思いや、町長になってからのさまざまな出来事をうかがいました。随所に温かいお人柄をしのばせるエピソードがありました。最後に、町長をおやめになったらまずなにをしたいと思っているのか、たずねました。すると、

 「私はね、戦争に行ったときに、大事な部下173人を戦死させてしまったんですよ。その墓参りをしなければ。87か所はすでにまわりました。あと86人の墓参りを諸国漫遊と称して済ませたい。それが私の願いです。人生最後の大仕事です。それをするまで死ねんのです。」

 一瞬目を伏せて、益子さんは口元をぐっと噛みしめました。思いもかけない言葉に、私は戸惑いました。これが、この人の温かさなのだ!胸の中に湧き上がった熱いかたまりを飲み込んで声を出そうとしたら、涙があふれてなにも言えなくなってしまいました。

 「あんたが泣くから、わしまで泣けてきちゃった……。」

 そう言うと益子さんも目頭をおさえました。

 その益子さんと、先日再会を果たしました。那須町で講演することになり、主催者の方が益子さんに連絡を取ってくれたのです。あれから10年、益子さんは94歳になっていました。しばらく入院していましたが、今はご自宅にいらっしゃるというので、おじゃましました。

 「やあ、やあ、やあ、やあ、よく来てくれましたねぇ。」

 片手をあげて益子さんがゆっくり歩いてきました。幾分小さくなったような気がしましたが、笑顔はあのときのままです。私は、ずっと気になっていたことをうかがいました。

 「お墓参りはどうなさいましたか?」

 「おかげさまで、すべてまわることができました。町長をしている間も、ずっと心に引っかかっていて……北海道が多かったんだよ。でも、みんなお参りできました。やっと……念願が……叶いました。」

 ひと言ひと言かみしめながら話すその横顔に、私はまた目頭が熱くなりました。「念願」という言葉の重みを、このときほど感じたことはありませんでした。

 最後に並んで立って記念撮影をすることに。すると、

 「ありゃ、村松さん、いつの間にか大きくなったね。わしより背が伸びたよー。」 

 たしかに以前一緒に撮った写真では、私のほうが背が低かった。なんともユーモアあふれるひと言に、とびっきりの笑顔で写真におさまったのでした。

掲載:「月刊公民館」(全国公民館連合館)2004年4月号