ハサミの秘密

 高校生の息子が「眉毛手入れセット」なるものを買ってきました。余分な眉毛を抜くためのピンセット、コーム(小さなくし)、それに小さなハサミが入っています。今時の男の子は、眉の手入れまでしなくてはいけないなんて、たいへんなのね。そんな時間があったら、勉強するか部屋の掃除でもすればいいのに。

 そういえば、先日一緒に夕飯を食べた息子の友達は、NHK大河ドラマに出てきそうなほど凛々しい眉をしていたので、 
「立派な眉だね。手入れしているみたいにきれいだね!」と、私が言ったら、
「もちろん。自分で形を整えているから。」
あっけらかんと言って、デビューしたての郷ひろみのように爽やかに微笑む彼を見て、私の驚いたことといったら! 思わず我が子の顔を見たら、気の毒にも私に似た情けない形の眉をしていました。

 翌日、息子が眉の形を整えるにはどうしたらいいのか尋ねるではありませんか。私だって、おしゃれな眉バサミくらい持っています。指を入れるところに、まるでロココ調のようなエレガントな模様が入っています。ほとんど使ったことがありません。使いにくいのです。でも、一応アナウンサーとして長年テレビに出演してきた私としては、息子の前で眉バサミを使いこなせないということは言えません。
「じゃ、使い慣れてる私のハサミで、手入れしてあげようか。」
「大丈夫?」
「任せといて!」
息子は心配そうに私の手元をみつめていました。
「あれ? ちょっと切りすぎちゃったね……。こっちも切ればいいか。」
「もう、いいよ! やめてよ。それに、そのハサミ、なんだか変だよ。」
「そう?」
おかしな形にしちゃってごめんねと、心の中でお詫びしました。

 翌日、私は、友人に眉の手入れの仕方を教わることにしました。
「ちょっと使いにくいの。」と、言って差し出した私のハサミを見て、彼女は、
「これ、形がちょっと変じゃない? 」
そう言われてよく見たら、刃が微妙にカーブして先端が丸くなっています。
「これ、鼻毛バサミだよ!」
「えーっ!!!? 」
鼻毛バサミが、なんで「ロココ調」なのよ! 私達は、お腹がよじれるほど笑い転げました。

 私にハサミの世界の深さを教えてくれた息子の眉毛セットは、いまだに使われていません。眉毛を半分にされても怒らなかった息子の眉は、以前の形に戻りつつあります。ゲジゲジ眉でもいいんだよ、大切なのは中身だものね。

掲載:「月刊公民館」(全国公民館連合館)2004年5月号