元気をもらった!

 ある福祉団体が主催する講座でのこと。一番前の席に座っていた男性は、穏やかな眼差しで、私の話に相槌をうってくれています。(こういう方がいると本当に話しやすいものです。)
「では、プリントを見ながら、声を出してみましょう。」
発声練習をしようとしたら、
「すみません、村松さん。私読めないのです。」
最前列のあの男性がおっしゃいました。足元をみると白い杖がおいてあります。
「ごめんなさい。気がつかなくて。」
視線を交わしながら話していたので、まったく気がつきませんでした。そこで、プリントに書いてある言葉をひとつずつ暗記してもらって、みんなと一緒に発声練習をしました。

 その後ろに座っている女性は耳が不自由でした。手話通訳や私の口の動きを読んで聴いてくださっていました。笑顔をたやさない女性です。彼女が声を出す番になったとき、私はそばに行きました。彼女は、手話で『私は10年ほど前に音を失いました。でも、それまでは話していました。言えるかどうか心配だけれど、やってみることにします。』と、おっしゃいました。私は彼女と向き合って、体でリズムを取り文字を指差しながら発音しました。じっと私の口元をみつめ何回か口をあけて練習した後、彼女は大きな声で弾むように声を出しました。一瞬教室がシーンとしました。次の瞬間、大きな拍手がおこりました。それは、たいへんつややかな、よく響く声だったのです。彼女の友人が興奮気味に言いました。
「初めて声を聴いたけど、いい声しているよ!」
そのひと言でまた教室がわきました。

 講座が終わると、その女性がやって来ました。
「実は以前、自宅の近くで村松さんをみかけた時、勇気を出して『こんにちは』って声をかけたら、『こんにちは』って返してくださったのです、覚えていらっしゃらないでしょうけれど。普通に挨拶できたことがとっても嬉しくて。きょうは来てよかった。元気がでました。これからは、みんなに挨拶してみます。」
と、頬を上気させながら手話を交えて話してくださいました。

 自分に障害がのしかかってきたとき、きっと受け入れられずに悩んだことでしょう。でも、逃げずに向き合って前向きに生きていこうとしている! その姿勢に、私のほうこそ「元気」をもらいました。障害があってもたとえ病気であっても、心が「元気」なら大丈夫。ネコヤナギがふくらみかけたまだ冷たい初春の風の中、心の中はぽっかぽかになりました。

掲載:「月刊公民館」(全国公民館連合館)2004年6月号