中学生に泣かされた

 夏の盛りの体育館。中学1年生から3年生までの全校生徒が、椅子に座って私を見ています。窓を開け放していても、蒸し風呂に入っているような暑さ。舞台に用意してくれた扇風機の風が、これほどありがたく感じられたことはありませんでした。ハンカチなどであおいでいる生徒もいます。髪の毛が汗で額にぴったり張り付いている子もいました。

 埼玉県のある中学校に、アナウンサーという職業のおもしろさについて講演に行った時のことです。冷房施設のない体育館に全員が集まり、その熱気で耐え難い暑さになり、「やってられないよ!」と、言いだす子がいたらどうしよう……。私は内心不安でした。それにお昼前。お腹もすいていることでしょう。

 そこで開口一番、「暑いね!私も一生懸命話すから、我慢して聴いてね。まず、今お腹がすいている人、拍手してくださーい!」と、言ったら、笑い声と共にかなり大きな拍手が!「みんな正直だねぇ。では、アナウンサーになりたいと思っている人、拍手してください!」数人から威勢のいい拍手がおこりました。そのなかのひとりに舞台に上がってもらいました。思いがけない展開に生徒達は大喜び、身を乗りだして舞台に注目。なぜアナウンサーになりたいのかインタビューし、早口言葉に挑戦してもらいました。夢を諦めないことや、仕事の充実感、楽しさを私は話しました。

 あっという間に1時間が過ぎました。生徒会長のお礼の言葉があり、ショートカットの髪の女の子が舞台にあがってきました。彼女は滑らかに話し始めました。ところが、途中で話につまってしまいました。声が震えています。顔を見たら目が真っ赤でした。
「村松さんの話をきいて良かったと思いました。私達は今3年生で…受験のこと、進路のこと…みんな悩んでいます。自分は、なぜ、こんななんだろうって……。」

 ここまで言うと、彼女の頬を涙がすーっと流れ、とめどなく溢れてきました。私は戸惑いながらも、小刻みに震える彼女の肩に手を置きました。泣くのをこらえながら懸命に話そうとする、その健気な姿が、抱きしめたくなるほどいとおしく感じられました。そうだった!多感な中学生の頃、私もこんなふうに悩んだっけ。あの頃の自分の姿と彼女が重なって、私も泣き顔になってしまいました。「わかるわかる、その気持ち。がんばってね!」私も精一杯励ましの言葉をかけました。体育館に、もらい泣きしている音がかすかに響きました。どんなに多くの言葉を重ねるよりも雄弁に、彼女の涙は多くのことを語りかけていました。中学生に泣かされるとは!体育館を出るとき、私の心は清々しい思いで満たされ、すっかり暑さを忘れていました。

掲載:「月刊公民館」(全国公民館連合館)2004年10月号