笑って泣いた卒業式

 私立の男子校に通うわが子が、この春、高校を卒業しました。つい昨日までは小言を言わずにはいられなかったのに、ネクタイをしてスーツに身を包んだだけで、頼もしく見えてしまうことに戸惑いを感じました。

 その卒業式でのことです。卒業証書は、クラスごとに名前が呼ばれ、代表者が登壇し校長先生から受け取ります。ところが、代表者がなかなかステージに姿を見せません。ステージの下でざわついたような気配がありましたが、起立した生徒の陰で保護者席からは窺うことができませんでした。次の瞬間、黒い革のパンツと帽子、黒のサングラスをかけた生徒が校長先生の前に歩み出たのです。なんと!「レーザーラモンHG」に扮していました。彼は、スーツの下に衣装を着ていたのです。「がんばれよ!」と校長先生に声をかけられた彼は、クルリと振り向き「やったぜ卒業 フォ〜〜〜!」と、例のポーズをしたのです。会場は大爆笑。クラスごとに趣向を凝らしたパフォーマンスが、この学校の伝統なのだと後から聞きました。

 そんなユニークな卒業式でしたが、涙にくれる場面もありました。卒業生のひとりが、同級生の遺影を抱いて入場してきたからです。それは、今にも飛び出してきそうな笑顔の写真でした。彼は、高校2年生のとき、白血病で亡くなりました。校長先生は、彼が最後に書いた作文「僕の夢」を紹介してくれました。そこには、中学2年の時に発病し、学校に行けなくなってしまったこと。早く病気を治し、皆と一緒に勉強したり遊んだり、クラブ活動をしたいという、彼の思いがたくさん込められていました。「僕らは、命の尊さを知っている。彼の分まで頑張って生きる」という答辞の言葉が心に沁みました。

 また、息子の親友は、溢れる涙を、人目もはばからず両袖でぬぐいながら式場を後にしました。彼は、中学生のときに父親を癌で亡くし、高校生になってから、母親までをも同じ病で亡くしてしまったのです。高校受験の妹の面倒をみながら頑張ってきました。きょうの晴れの姿を母親に見てほしかっただろう。母親も見たかったに違いない。スキー部の大会で、一緒に応援した彼女の横顔を思いだしました。雪面を果敢に滑り降りるわが子の姿を見る、最初で最後の大会になることを知っていたのでしょう。ひたすら写真を撮っていました。私たちには癌であることを告げずに逝ってしまった彼女。どんなに切なかったことでしょう。

 子の思い、親の思い…。さまざまな思いが胸をよぎり、卒業生ひとりひとりに拍手を送っているうち、いつしか涙でかすんで見えなくなってしまいました。

掲載:「月刊公民館」(全国公民館連合館)2006年6月号