夏の終わりに出合ったそうめん王国

8月の終わりの鹿児島県指宿市開聞。どこまでも青い空に、富士山を小型にしたような開聞岳がくっきり浮かんでいます。そろそろ夏も終わりというのに、容赦ない陽射しに、道行く人影はなく、点在する民家の窓も閉ざされ、人の気配は感じられません。

ところが、町外れの一角で、おびただしい数の車が目に飛び込んできました。数百台分はあろうかと思われる駐車場が車で埋まっています。「唐船峡(とうせんきょう)そうめん流し」という白い大きなアーチ型の看板に、車から降りた人たちが吸い寄せられるように歩いていきます。ちょうどお昼時。竹筒をすーっと流れるそうめんを考えると、いても立ってもいられなくなりました。

木立の間をせせらぎの聞こえるほうに下っていくと、ひんやりとした空気とともに、突然ワーンというざわめきが押し寄せてきました。笑い声、話し声、子どもを叱る声…。一体どこからこれほど多くの人が集まったのだろう!? まるで別の国に迷い込んでしまったような、狐につままれたような気分でした。しかも、そこには見たこともない光景が広がっていたのです。

青いプラスチックの丸テーブルが数え切れないほど並び、中央には、茹でたそうめんを入れたざるがドンと置いてあり、その周りをグルリと透明な水槽のようなものが囲んでいます。その中を、目にもとまらぬ速さで、そうめんが回っているではありませんか!"ゆらゆら流れている"などという優雅なものではなく、"ビューッと突っ走っていく"ように私には感じられました。グルグル回る金魚鉢の中のそうめん!? 私は気後れしてしまいました。

ところが、そうめんが回り始めた途端、「さあ、食べるぞ〜!」という気持ちに駆られるから不思議です。しかも、そのおいしいことと言ったら! 

回転寿司と逆に回っているのは、お箸を入れるだけでそうめんがかかり、食べやすいからだと気がつきました。我が家では薬味に生姜を使いますが、ここではたっぷりの山葵でした。頭の中で、運動会のテーマソングが流れているような勢いでそうめんを食べ、一息ついてあたりを見回すと(食べることに夢中で気がつかなかったのですが)、岩肌から水が流れ落ち、清流には鯉や鱒が泳ぎ、まるで京都の川床のような風情がありました。

それもそのはず。1日10トンの湧水があり、国土庁の名水の里百選にも選ばれているのだそうです。水圧を利用した回転式そうめん流し器もここで生まれました。昭和37年、開聞町の助役だった方が開発したそうです。

地上の厳しい暑さを忘れさせてくれる、ここは、まさにそうめん王国。"唐船峡"ならぬ"桃源郷"。鹿児島の底力に圧倒された今年の夏でした。

掲載:「月刊公民館」(全国公民館連合館)2006年11月号