公民館の底力

 「話し方教室をお願いしたいと言いましたが、じつは私自身が人前で話すのが苦手なので学ばせていただきたいと思っているからです」

 そう言って、彼女は頭を下げました。彼女の勤める公民館で話し方教室を頼まれたのです。必死な思いが伝わってきたので、引き受けることにしました。

 講座では、発声練習から始めて、会話が弾むコツや司会の仕方についてお伝えしました。彼女は毎回、司会をしながらメモを取っていました。司会者が明るく始めると、その会はうまくいくという私の言葉を受け、回を重ねるごとに落ち着いてマイクを持てるようになりました。

 その彼女の勤めている公民館が開設50周年を迎えました。記念講演会に、ジャーナリストの池上彰さんを招きたいので力を貸してほしいと相談されました。あれだけ多くのTV番組に出ていらっしゃる方ですから、ダメ元で打診したところ、快諾してくださいました。

 さあ、それからが大変です。会場を探し、テーマや流れを決めなければなりません。私も公民館の役割や、池上さんの紹介、それに平和を願う作品の朗読をすることになりました。多忙な池上さんと連絡が取れず心配する職員と池上さんの間に入って、メールのやり取りで詳細を決めていきました。記念講演会の司会は、話し方教室の依頼をしてきた女性が担当することになりました。

 いよいよ当日。彼女は、400人もの前で司会をするなんて!?と、表情が硬く緊張していました。会場を見て、笑顔で話すようにアドバイスしました。「みなさま、こんにちは!」明るい声で第一声を発することができたので、きょうの会は大丈夫だと確信しました。また、池上さんと掛け合いをしている中で私が社会教育について話そうとしたら、池上さんがものの見事に公民館の誕生から役割について、わかりやすく話してくれたのです。これを聞いた若い男性職員が「池上さんが公民館のことを説明してくれて嬉しかった。公民館で働いていてよかったと、きょう思いましたよ」と、興奮気味に言っていました。

  その言葉を聞いて、ハッとしました。お客様の受付、誘導、そして会場内の音声、照明、各種機材の設営まで、すべて公民館職員が担当していたのです。以前なら大手広告代理店が請け負っていたイベントを、自分たちで仕切っていたのです。あらためて公民館の底力を感じました。司会を務めた彼女もそうですが、「やればできる!」ということを実感し、公民館に携わっていることの喜びをかみしめた一日となりました。

掲載:「月刊公民館」(全国公民館連合館)2016年11月号