穏やかな日々

 あけまして、おめでとうございます。今年こそ、穏やかな年になりますように……。相次ぐ自然災害や事故など心痛むことが多いからこそ、日常のささやかなことがたまらなく愛おしいと感じるのでしょう。

 そんなことを考える機会がありました。昨年11月下旬、息子の結婚披露宴で二人が中座している時にスピーチを頼まれたのです。結婚式の数日前に、この原稿を書いています。

 息子が生まれた時、自分の命より大切なものができたと、愛おしさで胸がいっぱいになりました。生まれたばかりなのに、私の指をぎゅっと握りしめた時の力の強さに驚きました。30年近く前のことなのに鮮明に覚えています。寝起きの良い子で、昼寝から目が覚めると、お布団の上にちょこんと座って恥ずかしそうに笑う顔が好きでした。1歳の誕生日の2日前、背後に気配を感じたので振り返ると、両手を挙げて立ち上がり左足を一歩前に出していました。初めて3歩歩いた瞬間でした。あの時の嬉しそうな顔は忘れられません。初めて描いた絵は私の顔でした。三日月のような目に、大きな口がニッコリ笑っていたのです。いつも叱ってばかりいるのに、嬉しかったなぁ。

 幼稚園へ通い始めた頃、我が家へやってきた猫のミルキーは、息子のことが大好き。夜息子がベッドへ入ろうとすると、パッと飛び起きて息子と一緒にベッドへ潜り込み、朝までぐっすり仲良く寝ていました。

 思春期の頃、夫は単身赴任してしまい、無口で何を考えているかわからなくなった息子との毎日は、衝突することが多くなりました。受験勉強もしないで一晩中ゲームに興じている息子に、「大学へ行かなくていい。働いて好きなだけゲームをしなさい!」と、泣きながら体当たりで叱ったことが一番の思い出。母親の本気が通じたようで、翌日から人が変わったように勉強しだしたのには、びっくり! 中学から作り続けたお弁当、時には手抜きメニューもあったけれど、空っぽになったお弁当箱を見ると嬉しかったな。息子との心のキャッチボールだったから。朝寝坊の宵っ張り、毎朝起こすのが私のストレスで、霧吹きで顔に水をかけると起きることが判明。ある朝、「お願いだから、たまには水を変えて!」と言われて爆笑したっけ。

 泣いたり笑ったり我慢したり、いろいろあったけれど、子育ては自分を育てることでもあったのだと気が付きました。振り返ると、ささやかな日々の営みこそ、じつはかけがえのない幸せなのだと、あらためて感じています。

 穏やかな日々が続きますように……。今年も、どうぞよろしくお願いします。

掲載:「月刊公民館」(全国公民館連合館)2017年1月号