ヘアドネーション

 「お、雨が降ってきた」という夫に「降ってないよ」と返す私。「頭皮レーダーが雨をキャッチしました」と言って、頭頂部をポンと叩きます。なるほど!正確なレーダーだと納得し慌てて自宅へ戻りました。

 このところ、私も髪が薄くなったような気がします。部屋の掃除をしていると、髪の毛がたくさん落ちているのです。あまりにも抜け毛が多いので主治医に相談すると、免疫不全症の人は毛髪が抜けることがあると言われました。行きつけの美容師さんに相談したら、なんと、彼女もストレスからくる脱毛症で、頭皮に注射をしていると言うではありませんか!人知れず、多くの人が髪の悩みを持っていることを知りました。

 ガンで闘病中の小林麻央さんのブログを見ていたら、ヘアドネーションについて書かれていました。抗がん剤を投与する前に、長い髪をバッサリ切ったのですが、病気で苦しんでいる子どもたちに髪を無償でプレゼントする団体があることを後で知り、後悔したと書かれていました。大人のかつらはたくさんありますが、子ども用のかつらはあまりなく、フィットするかつらがないために、人前に出られなくなってしまうことがあるそうです。麻央さん自身も大変な思いをしているのに、子どもたちのことを思いやる優しさに感銘しました。

 昨年の暮れに、東京都福生市の公民館で朗読講座の講師を務めた時のことです。長い髪をくるっと巻き上げ、おしゃれな櫛でまとめた女性がいました。小料理屋の女将のような感じで、粋で元気のいい方です。全部で8回ある講座の6回目の時、彼女はショートカットで現れました。驚く私たちに、彼女は以前からの決意を話してくれました。病と共に生きる子どもたちの希望を、自分の髪で作ったかつらでつなげるかもしれないと思い、寄付することを決めたというのです。ヘアドネーションに必要な髪の長さは31p。1か月に1p伸びるとしても3年はかかります。真夏の暑さに、思わず切りたくなったこともあったそうですが、頑張って良かったと言っていました。

 私も大学生までは、腰まで届くほどの長い髪でしたが、アナウンサーの採用試験を受ける時にショートカットにしました。「持ち帰ったら?いいかつらができるわよ」と、美容院の方に言われたことを思い出しました。今から31pは、私には無理ですが、ロングヘアの方、ヘアドネーションというものがあることを頭の片隅に置いておいてください。自分の髪が誰かの笑顔につながっていくって、素敵なことですよね。

掲載:「月刊公民館」(全国公民館連合館)2017年2月号