職員一人。年間予算10万円でも輝いています!
〜優良公民館全国1位 広島県大竹市玖波(くば)公民館を訪ねて〜

 「村松さーん、お会いしたかったー!」「ようこそ、玖波(くば)公民館へ!」

 大歓迎を受けて、びっくり! 初めてお会いしたとは思えない笑顔の方達ばかり。「初めてじゃないの。文部科学省の表彰式に私も行ってたんですよー」と嬉しそうにおっしゃったのは、玖波公民館をボランティアとして支えている「地域ジン」のおひとり、伊藤信子さんです。

 広島県大竹市の玖波公民館は、岩国空港から車で20分ほどのところにあります。築42年、外壁がところどころ剥がれていて「大丈夫かなぁ……」と心配になりましたが、一歩足を踏み入れると、そこには明るく元気な世界が広がっていました。「地域ジン 學びのカフェ」と書かれた藍色の旗が飾られています。「玖波コレ」という、地域の人たちがモデルになったファッションショーの写真が張り付けられたパネルもあります。武者姿やお姫様など衣装やカツラをつけての本格的なファッションショーです。見ている人も皆笑顔。楽しそうな雰囲気が伝わってきます。

 会議室に入って、またびっくり! ツートンカラーのカーテンかと思ったら、黒いカーテンの一部が日に焼けて白く変色していたのです。何十年もこの会議室で繰り広げられてきた人間模様を見守ってきた証です。ワイヤレスマイクには、ガムテープがぐるぐる巻きに! 「音は出るので大丈夫ですよ」と、職員の河内ひとみさんが、ニッコリ笑って言いました。和室に調理室、会議室、図書室、それに体育館が併設されています。最近やっと洋式のトイレができたので皆喜んでいると、ご案内くださった地域ジンの川畑幸子さんが教えてくれました。

 決して恵まれているとは言えない環境ですが、この玖波公民館の活動が、文部科学省の優良公民館表彰で、一昨年(2015年)全国1位に輝きました。全国から選ばれた5つの公民館が、日ごろの活動をプレゼンテーションし、審査員やインターネットを通じて視聴している全国の方たちの投票で選ばれたのです。私は司会を務めたので会場にいました。玖波公民館のプレゼンテーションは写真やBGM,それにビデオも使って工夫されていました。活動もユニークで、地域活性化の大きな力になっていると感じました。職員は発表している河内ひとみさん一人しかいないのに、地域を巻き込んで次々と楽しい活動をしています。いつか行ってみたいと思っていたら、今年3月下旬に講演の機会をいただき玖波公民館を訪れることができたのです。

 10年前までは、3人の職員が運営にあたっていましたが、今では年間予算は、たった10万円で、しかもそれをたった一人で担うことになったとのこと。私だったら途方に暮れてしまいますが、河内さんは「自分の好きなことができる!」と思ったそうです。学びの場としての公民館を、もっと地域の人に利用してほしいと、2011年春から「學びのカフェ」を始めました。月に1回土曜日に、テーブルマナーやワイン講座など、おしゃれで楽しいイベントを実施しました。河内さんが一人で頑張っている姿を見て、地域の人たちが手伝ってくれるようになり、そのボランティアの輪が広がって地域ジンが誕生したのだそうです。地域ジンはそれぞれ得意分野を担当することになっています。玖波公民館の活動は、こうした地域ジンの活躍によって支えられているのです。

 學びのカフェ3月のイベントが私の講演でした。看板や名札を書いてくれたのは、伊藤信子さんです。伊藤さんは、以前から玖波公民館の木彫り講座に通っていて、河内さんの人柄と熱意にひかれて地域ジンになったそうです。元気の塊のような伊藤さん、文部科学省にも「地域ジン 學びのカフェ」とプリントされたお揃いのブルーのTシャツを着て応援に駆け付けました。

 会議室の仕切りを取り払って広くした部屋に机をコの字型に2列に並べました。こうした会場の準備をするのは佐々木豊孝さんです。キビキビと動く体育の先生のような佐々木さんは、新入りの地域ジンだそうです。定年退職し、これから何をしようかと考え、玖波公民館の地域ジンスタッフに名乗りを上げました。友人達から、以前より若々しくなったと言われるそうです。

 講演開始時間が近づくにつれて、隣の調理室の人数が増えてきました。學びのカフェなので、参加者にふるまうお茶の支度をしているのです。コーヒー好きの私にとっては、たいへん嬉しいことですが、準備は大変です。しかも途中でおやつを出すというではありませんか! 今回はハンバーグだというのでびっくり! おやつというよりランチです。体に良いものをと材料の調達にもこだわりをもって頑張っている地域ジンシェフは、洲上幸子さんです。デミグラスソースのハンバーグは優しい味で、温野菜や煮物などもあって体にやさしいお弁当でした。洲上さんは、幼い頃母親を亡くしてしまったので、父親に料理を教わったそうです。河内さんの人柄にひかれ、皆さんの喜ぶ顔が見たくて毎回頑張ってしまうとおっしゃっていました。写真とビデオ担当の木田泰秀さんは、会場を忍者のようにひょいひょいと動き回りながら撮影していきます。

 玖波中学校の生徒さんたちも地域ジンとして応援に来てくれました。会場入り口で参加者に元気に挨拶して資料を配ったり、ハンバーグを運んだりしてくれました。もちろん講演も熱心に聴いてくれました。中学生がこうしたイベントに参加してくれると、世代を超えたつながりができ、それが地域の未来を創る力になると思いました。

 河内さんは、「私の仕事は、人と人とをつなぐこと。つなげることでさまざまなことができるようになります。災害が起こった時だって、一緒に逃げましょうと声をかけることができるのです」と、おっしゃいます。河内さんの笑顔は、人と人とをつなげる強力な接着剤なのです。河内さんによってつながった人たちは、玖波公民館で誰かの役に立っていることを実感し、それが生きがいになり、地域を元気にしているのです。地域の人がつながって、地域の文化を知り、地域を育み、地域の未来を創っていくのだと、あらためて感じました。見えなくなるまでずっと手を振り送ってくれた地域ジンの皆さん一人一人と、私もつながったという温かい思いを胸に公民館をあとにしました。


講演を聞く参加者のみなさん


中学生たちも楽しそう!

地域ジンの人たちと一緒に

手伝ってくれた中学生たち


ガムテープがぐるぐる巻きのマイク

掲載:「月刊公民館」(全国公民館連合館)2017年5月号